鍵物語
ジェレミは、「鉄の塊」の国を出て、海を渡り、青銅の国の島々を渡った。その青銅の国、色の国を渡った。 色んな島々の、彩った町々を航り続けた。 やがて、Theeの住んでいる鋼鉄の国に、たどり着いた。 そこは、今までの島々の国とは、丸っきり違う国だった…
Theeの声が聞こえて来た。 「もうひとりで、大丈夫。」 ハンカチはつめたかった。 Theeの声はひどく凍っていた。 「大丈夫だから。」というTheeの声は、ジェレミの耳にとどくまえに、 あまりのつめたさで、途中で凍ってそのまま落ちてしまった。 だから、ジ…
ジェレミは、死にそうだ。もう来れ以上、耐えられなくなった。 息は止まり、心臓がふるえ続け、体のすみずみまで、痛み続けた。 しかし、それが理由ではない。 ジェレミは、選択しなければならなかった。 だれかを、ジェレミ自身以外のだんかを選ばなければ…
ジェレミは、何も、何も、何も言えなかった。 ただ、凍りつき、そして心で泣いた。 「ごめん。」という言葉さえ出なかった。 ただ、ふるえる手で、顔をおおい、何も言えず、長い間、ぐっと耐えていた。 手のふるえは、だんだん大きくなって、とまらなかった…
そのつめたい涙は、Theeのようにつめたい。彼らが待っているところから、 とても細い道がひとつ出ていた。その道はあまりにも細く一人が歩くことすら出来ない細い細い道であった。 そこに、四の足で歩くはずのジェレミが立っていた。ジェレミは一歩も踏み出…
耳には聞こえない音が、響くようにして心臓で聞こえてくるようになった。 聞こえない音が、ときどき息が出来ないほどの悲鳴になり、それは振動となって、ジェレミの心臓を、手を、足を、そして、心を強く揺らしていた。 Theeが荷車に引かれたときが、ちょう…
その気持ちとは「これは、どういう意味なの?」という意外さと疑問の顔だ。 Theeは、口を閉じたまま、ジェレミに目で、聞いて来た。 「どういう意味?」 「わたしとは、もう、会いたくないということ?」 ジェレミは、心の気持ちを精一杯隠しながら、目でこ…
怒っているTheeの口元の奥に見える隠しきれない笑顔が。 ジェレミがTheeの声を聴いたのは、その鍵が動いたからだ。Theeがジェレミに会いたいという思いによって、鍵は動いた。 ジェレミはTheeに会いたいと思っていなかった。会いたいという気持ちよりは、す…
味ではない。 あのTheeが、あの自尊心の高いTheeが、自分のことしか思ってないTheeが、 ジェレミのことなど、一度も聞いたことのないTheeが、 ジェレミのために、こんなにたくさん、こんな大きなテーブルいっぱい 料理を用意したのだ。 しかも一人で、何日も…
ジェレミは幼い時、原因不明の高熱で全身ば麻痺して、死ぬところだった。 そうなることに決められていたのだった。 そして、ジェレミは死んだような状態で二週間もいたので、死んだと思われた。 あらゆる医術も、呼霊術も、どんな薬も効かなかった。 そう決…
しかし、驚くほどの美しい姿とは、全く想像できない、あの悪い性格のThee。 群を抜いた美しさに多くの人々があっという間に群がるのだが、 その悪い性格を人々は群がる速度よりも早く離れて行ってしまうのだ。 そして、いつものように、また一人になるTheeは…
Theeは、まるで思い出を楽しむかのように、人の悪口を言っては笑い、 そして、自分の悲しみについて、ときに泣きながら、ジェレミに辛うじて聞こえるように呟いていた。 ジェレミは優しい笑顔で聞いているだけだった。 Theeのつぶやきは、小さすぎて、よく聞…
知ってたでしょう。私に昨日何があったのか。 大きな荷車にひかれて、下敷きになって、死にかけたのよ。 なぜ、私のところに飛んできてくれなかったの? なぜなの?あなた、知っていたのに・・ ジェレミは何も答えることが出来なかった。その通りだった。知…
ージェレミがTheeに書き送ったものー あなたから、涙のついた笑顔が届いたのは、あなたの冷たく、凍った心の傷のかけらたちを拾い集めΩため、あの町々、あの島々での不思議な冒険から戻った直後でした。 鉄の石を溶かし、さまざまな道具をつくり、利便な世界…