鍵物語つづき8
耳には聞こえない音が、響くようにして心臓で聞こえてくるようになった。
聞こえない音が、ときどき息が出来ないほどの悲鳴になり、それは振動となって、ジェレミの心臓を、手を、足を、そして、心を強く揺らしていた。
Theeが荷車に引かれたときが、ちょうどそのときだったのだ。
また、鍵が動いた。
そして、あの街の、あのTheeの家が遠くから見える場所に立っているのだ。
そして、ジェレミの手には、あの日と同じ気持ちで作って置いたハンカチがある。
Theeは、あのときと同じように、テーブルいっぱいの料理を並べ、あの美しい楽器をひき、その大きな楽器からの音よりも、美しく感じる声歌を聞かせてくれた。
そして、目の前のTheeに、ジェレミはまた、ハンカチを渡した。
それでも、Theeは、ジェレミの前にいた。
そのハンカチが何枚か、重ねてしまった、ある日のことだった。
いつもはジェレミの方から、彼女の前に現れてたのに、
いきなり、Theeがジェレミの前に現れた。
そして、Theeはジェレミの目を見ながら、こう言った。
「あの道は、どういう道?」
ジェレミは、何も答えられたなかった。
実際のところ、ジェレミもあまり詳しくはわからなかったから。
ただ、あの道を行くことが生まれる前から、決められたていることだけは知っていた。
それだけだ。だから、ジェレミは、あの道について、誰にも言わなかった。
ジェレミ自身もあまり知らなかったので、言えなかった。
なのに、Theeはどうしてわかっただろう。
Theeはずっとずっと毎日のようにジェレミに会いたかった。
ジェレミに会える唯一の方法である、楽器の青銅のところを、毎日毎日さわり、声歌を歌っていた。
鍵が動いてくれることを願いながら。
自分の心の声歌が、鍵に届くように、それで、鍵が動いてくれるように。
しかし、鍵は一向に動いてくれなかった。
ただ、声歌を歌う日々だけが過ぎていった。
ところが、ある日の朝だった。目を開けると、数えきれないたくさんの人々が、
誰かを待っている光景が見えた。
Theeは一目でわかった。彼らはTheeのように悪口を言ったり、怒ったりはしなかった。
しかし、共通のところがあった。つめたい涙である。