鍵物語 つづき4

ジェレミは幼い時、原因不明の高熱で全身ば麻痺して、死ぬところだった。

そうなることに決められていたのだった。

そして、ジェレミは死んだような状態で二週間もいたので、死んだと思われた。

あらゆる医術も、呼霊術も、どんな薬も効かなかった。

そう決まっていたからである。

その国でもっとも医術の高い先生のところに行って、見せたが、その先生はこう言った。

もう死んで何日も立っているよ。死体を持ってきてどうするつもり？

いよいよ。万事休すで土に埋める日が決まった。

ところが、その前日、ジェレミは生き返った。息を返した。

どうやって息を返したのかは、誰も知らなかった。

強いて言えば、通りかかった物売屋が、お金欲しさに、自分は医術ができると嘘をついて、

昔どこかで見たことのある医術師の治療方法を真似ただけだった。

そして、彼はお金を取って、どこかに逃げてしまった。

その物売屋のテキトーに施した医術は、ジェレミの体に深い傷をあっちこっち残しただけだった。なぜなら、その治療というのは、その辺の草をテキトーにとって来て、

それを丸めて、ジェレミの体のあっちこっちに置いて、それに火をつけるものだったからだ。

ジェレミの皮膚は、あっちこっちにひどい火傷を負った。

しかし、ジェレミはそんなところではなかった。死んでいたようだったから。

ところが、ジェレミは生き返った。そのテキトーな治療のおかげではなかった。

ただ、生き返ることに決まっていたからだ。

しかし、ジェレミは両足が不自由になった。両脇に松葉杖を持ったないと歩けない体になってしまった。でも、土に埋められずに済んだ。

決められていたことがその通りになっただけだった。

そのジェレミの四本足で歩く音がした。

Theeはジェレミに会って以来、初めて、彼のことで、口元が少しだけ、笑っていた。

しかし、すぐ系わしい顔で、Theeはジェレミに厳しい顔をした。

彼が近づいて来た時、Theeは彼を向いて、外に出た。「遅い！」

少し嬉しかった。Theeは、そういう気持ちになる自分がいやだった。

中に入ってという言葉さえかけず、Theeは家の中に入ってしまった。

ジェレミは、少し迷ったが、入った。

家の中は高価絢爛だった。滅多に手に入れそうもないものばかりだった。

若い女の一人暮らしの家がこんなに立派だとは、誰も思わないと思う。

しかも、この大きな家を、ほかの街から、夜逃げするように逃げて来た人が

すぐに手に入れ、住んでいるとは、なかなか想像できないほどの大きくて高価な家だった。

Theeが、何も言わず、立っていた応接間のようなところは、

まるで王様がどこかに座っていそうな高価な椅子がずらりと並んでいた。

その片隅には、大きな大きな立派なテーブルが置かれていた。

そのテーブル の上には、ジェレミが今まで見たこともない料理があふれんばかりに置い

てあった。

ジェレミは何も言わず、たっていた。すると、Theeも何も言わず、テーブルの向こう側

席を指差すだけだった。

ジェレミは座った。あまりの高価さに、ジェレミはその料理に手をつけることができなかった。

ずっと、色とりどりの、この世のものとは思えないその料理ひとつひとつをただみつめているだけだった。

その時だった。

Theeが、その広い応接間の向こう隅に置かれた大きな楽器の蓋を開けながら、

小さな声でこう言った。

「全部 私が作ったの」

ジェレミは、何も言わずに、やっと料理に手をつけ始めた。手が若干震えていた。

うまかった。