鍵物語 つづき13
Theeの声が聞こえて来た。
「もうひとりで、大丈夫。」
ハンカチはつめたかった。
Theeの声はひどく凍っていた。
「大丈夫だから。」というTheeの声は、ジェレミの耳にとどくまえに、
あまりのつめたさで、途中で凍ってそのまま落ちてしまった。
だから、ジェレミは、Theeが何を言っているのかは聞こえなかったが、わかったのだ。
そして、凍って落ちている声たちをジェレミは、ただ見ているだけなのだ。
やがて、ジェレミは、Theeに会いに行くことにした。
Theeの実家が、どこにあるのかは、知っていた。
あの島の、王宮のすぐそば。
王族よりも、どの貴族よりも膨大な富を成していて、
国で重要な役割を果しているなの家系。政治、法津、教育、医術など…。
それがTheeの家糸なのだ。以前Theeから、彼女の家のことを聞いた時、まるで、とおいとおい異国のおとぎ話市のような距離感を感じたものだった。
Theeは、その家の人々にきらわれているから,こんなにとおいところに来ているわけではない。
Thee自身が自ら、遠ざけ、苦しみ、苛立ち、自分をきずづけている。
Theeが人々に悪口を言ったり、苦笑したり、からかったり、すぐ怒ったりすること、
すべて、Thee自身に向けての、自分の心の表われだった。
つめたいあの涙は、TheeがTheeのことを傷付け、怒り、苦笑し、からかい、ののしる度に、二東っていくTheeの心ぞうの、魂の傷から流れる血だったのだ。
そんなこと、ジェレミは、とくに知っていた。
ただ、どうしようもなかったのだ。
会いたかったけど、会ったら、ジェレミの心と心ぞうと体、そして、たましいが激しく揺れてしまい、痛みのない痛みが、ずっとずっと、消えないまま、ジェレミを、苦しめるだから。
しかし、ジェレミが、Theeに会わないように「歯」をくいしばって、耐えているのは、ジェレミ自身の苦しみのためではなかった。
あの道の向こうに待っているあの人々のためだった。
そして、Theeのためだった。
Theeは、もっともっとすばらしい人に出会うべきだと思っていたから。
しかし、今、ジェレミは、Theeの家に向かっている。